2012-03-05

小山 進(パティシエ エス コヤマ) 2012. March.10th

1:2011 SALON DU CHOCOLAT AWARD「外国人最優秀ショコラティエ賞」の受賞おめでとうございます。パリで開催されたサロン・ド・ショコラの初出展はいかがでしたか?

小山 進:
昨年は震災もあり、日本の食べ物の安全性を問われていた事は分かっていましたが、実際にサロン・デュ・ショコラに参加させて頂くと、フランスの方は私達に対してすごくウエルカムな姿勢でした。日本の食文化、日本のモノ創りのレベルの高さをストレートに受け入れてくださいました。

ただ、私はフランスで認められようと今まで生きてきたわけではありません。今回のサロン・デュ・ショコラでは、日本のスタンダードを表現しただけにすぎないので、受賞に関しては、私自身が凄いとは全く思っておらず、日本のスタンダードのレベルが高かった事が証明されただけの事だと思っております。

そして、日本に比べて遥か昔からショコラ文化が根付いているフランスの方々が、その事に関して素直に受け入れてくださった事には本当に敬意を表します。

今回勉強になった事は、フランスの方々の理解の深さ。いいことはいい、と大声で行ってくださるところです。私自身、他の人がダメと言っても、自分がいいと思った事に関しては突き進んでいくタイプなのですが、日本人はそういった事が言える人が少ない。会期中、フランスには私と同じような方々が多かったので、ほっとしたのを覚えています。


2:あなたにとってショコラとは何でしょうか?

小山 進:大人がはまるモノづくり。
ショコラには、保存性の面から一定の水分量(クリームやピューレ)しか加える事が出来ません。

例えば木苺のボンボンショコラを作る時。木苺感を強く出したければピューレの量を増やせば風味は増すのですが、水分量が決まっているなかでさらに木苺のアロマを出したい時にはどうするのか。そこでカカオの品質や産地の違いを駆使するのです。木苺に近い酸味や風味を持つカカオを使って、木苺感を感じさせるのです。水分量が決まった中であみ出される、カカオ個性を生かしたチョコレート作り。それはカカオの特性を知れば知るほど“可能性”は広がってきます。

私が思うに、ショコラ作りは“抑制の美学”の賜物です。

ケーキ職人として長く経験を積んできたからこそ、夢中になれる魅力があると思います。


3:ショコラまたはパティスリーとの出会いを伺ってもよろしいですか?

小山 進:
私はケーキ職人の息子なので、子供の頃から父の職場を見てきました。高校生になり、クリスマスに父のところでアルバイトをする事になりました。子供の頃の遊び場だった父の厨房が、時給をもらって働く職場に変わっていった。そのことが、改めてケーキ職人を志すきっかけになりました。


4:お父様の影響を感じる事はありますか?

小山 進:
母に「ケーキ屋にはなるな」と言われて育ちました。最初はどうしてそう言うのかわかりませんでしたが、大きくなるに連れて母が言っていることの意味がわかってきました。それは私に対する愛情。楽しいイベントの時にほど、一緒に家族と過ごす事が出来ない職業。将来私が家庭を持った時のことを考えてのことだったと思います。

父はおとなしいけれど職人気質的なところがあり、仕事に一生懸命な人でした。あまりにも優しく、人にものを頼むということがものすごく苦手だったので、どちらかというと、人を育てようとか、世の中を変えよう、というよりは、美味しいお菓子を作りたい、という思いの方が強かったと思います。

私が決定的にこの道に進もうと思ったきっかけは、高校生の頃にクリスマスケーキを作る手伝いをしていた時のこと。父の働いていたお店は和菓子も取り扱っていたのですが、父と私が一生懸命ケーキを作っているのを尻目に和菓子職人の方々は普通に帰っていきました。それはおかしい、と思い、高校生の私は和菓子職人の方々に「ちょっと手伝ってくれてもいいんちゃうか」と詰め寄ったんです。父にはその時すごく怒られましたが、その事がきっかけで私はチーム感を大切にする洋菓子店を創ろうと思いました。

また、父には父親(私にとっては祖父)がいなかったので、父親がどのあるべきか、という事がよく分からず、私には何も言えなかったようなんです。

だから私は、今の時代によく言われる“教えてくれない”ではなく、教えてもらって育ってないから“考える”ようになったのです。

そんな父の影響を受けつつ、この道を選んだ事で、パティシエになる事を反対した母親には絶対悲しい思いをさせたくないと思い頑張ってきました。

そういった意味では、父親だけでなく、両親から影響を受けていると思います。


5:ショコラは芸術もしくは文化の一端を担うものとお思いですか?

小山 進:はい。
味の文化や芸術を担うものだと思います。例えば抹茶。抹茶は光に当たってしまうと、酸化して色がくすんでしまいます。抹茶は今や世界にも広がり、外国のショコラティエの方も使われていますが、正しい知識を知らない方は多い。それは日本でも同じ事が言えるかと思います。日本だけでなく世界の方々にも、ショコラを通じて、日本の素材の正しい知識を広めていかなくてはならない。また、派手な飾り付けというわけでなく、日本の繊細なモノづくりの文化=芸術をショコラで感じて頂きたいと思っています。

古き先輩達が作り上げてきた味の文化・芸術を、継承しながら進化させていく事が私達の世代が担う役割だとも思っています。


6:ショコラまたはパティスリーを創造するとき 何からインスピレーションを受けますか?

小山 進: すべて日常からです。
食べたいなぁという食欲から受ける時もあるし、美しいなぁという美意識から受ける事もある。おもしろいなぁという人の話から受ける時もあります。

ただ、食という文化に関しては、料理から強いインスピレーションを感じる事が多くあります。

料理人の自由な発想を目の当たりにした時、悔しい、もっと柔らかくならないと、と思います。

また素材と、素材を作ってくれる生産者との出会いからもあります。気の遠くなるような細かい事、手間をかけて作ってくれている事を知った時は、大切に、素材本来の味を生かしたショコラ・お菓子を作らなければと思います。


7:あなたが考える、美味しいショコラとまずいショコラの定義を
教えていただけますか?


小山 進: 大切なのは、基本をしっかりと守る事。
その為には、基本を忠実に再現する環境(マシーン)などを揃える事が必要だと思います。

例えば、ステファン(真空で高速回転してガナッシュを創る機械)などを使わないと新鮮なショコラを作る事が出来ません。

バレンタインなどの時期だけにショコラを作ったらいい、という安易な考えでは、温度変化に弱いボンボンショコラの保管をしっかりと出来るとは思いません。言い換えれば、年間を通じて真剣にショコラに向き合い、環境をしっかりと整えて作っている人のショコラでなければ、美味しいはずはないと思います。
たまたまレシピがよかったとしたも、美味しいショコラを作ろうとする姿勢が美味しくない。

環境を整えて、本当に美味しいショコラを作りたいという、美しい姿勢で作られているショコラが、味だけでなく心まで感動させるのだと思います。


8:どんな香りが好きですか?

小山 進:
その時々の、イメージにしっくりとくる香りや、その場のシチュエーションを高めてくれる香りが好きです。

また、それぞれの季節の朝や夕方、雨上がりの香り。天候や気候の違いによる自然的な香りも。
その時々の思い出がよみがえったり、趣のある風景が香りから感じられるからです。


9:オリジナルで何がおすすめですか?

小山 進: ボンボンショコラ『ミエルサパン』

もみの木蜂蜜(ハチミツ)の風味がふっと現れ、すっと消えるキレのよいガナッシュをビターチョコレートでくるんだボンボンショコラです。濃く甘い蜂蜜のイメージを覆す一品で、私自身、よく出来たと思うショコラです。


10:この仕事をしていて良かったことは?

小山 進:
教師、グラフィックデザイナー、歯科技工士など、色々となりたい職業はありましたが、パティシエはそのなりたかった職業すべてを投入できる仕事だと感じるところです。


11:満足できるのは、どんなパティスリーまたはショコラができたとき?

小山 進:
自分が気に入ったものが出来た時。自分の思った以上のものが出来た時です。


12:お客様が満足するには何が大切ですか?
あなたの抱く「おもてなし」とはどんなイメージですか?


小山 進:
お客様の想像を超える事です。

まだまだ私のお店にも足らない事がたくさんあります。ホスピタリティに関しては、お客様のご要望、ご意見をしっかりと受け止め、日々改善に向けて取り組んでいます。

ただ、商品とか店舗空間の創造性に関しては、お客様のウォンツやニーズにお答えするのではなく、自分がいいと感じた事や、足らないと思った事を基にクリエイションをしています。

自分のスタンダードが、いい意味でお客様に驚きを与えたり、満足して頂けるようにならなければなりません。

だからこそ、それがエゴに思われないよう勉強し、自分がいいと思う事や悪いと思う事に対してブレがないようにする事が大切だと思っています。


13:あなたにとって 「美しい」とは何でしょうか?

小山 進:
そばに置いておきたいもの、です。

例えば子供の頃。クワガタには色々な種類があり、様々なカタチをしていますが、子供ながらにクワガタの大あご(一般的には「角」「牙」などと呼ばれる)の形が、なんとも言えず美しく思えて、クワガタ取りに夢中になりました。それは大人になった今でも変わる事はないと思います。

昆虫の艶や質感、葉っぱのカタチや色など、自然界から「美しさ」を学んだような気がします。


14:次に挑戦しようとしていることは?


小山 進:
新しいチョコレートショップの建設と、その跡地に駄菓子屋を作りたいと思っています。

駄菓子屋は私に夢を与えてくれました。10円玉を握りしめてどれを買うか、ドキドキ感がありました。全部身体にいい素材で、子供にあったポーション、子供サイズのショーケースに商品をたくさん並べて、自分で選んで買えるようなお店を作りたいと思っています。

今の若者たちと接していて、物は豊かになったけれど、どこか自分たちの時とは違うものを感じます。管理社会の中で、窮屈に生きるいて、自立心が欠落しているのではないかと。駄菓子屋を作って、未来を担う子供達の自立心を養わせるお手伝いが出来たらと考えています。


(This email's interview is current as of February. 2012)
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The Credit will read:
Posted with permission from Susumu KOYAMA
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小山進プロフィール:
1964年京都で洋菓子職人の父の元に生まれる。専門学校卒業後、神戸「スイス菓子ハイジ」に入社。その間、洋菓子コンクールなどで優勝を重ね、2003年兵庫県三田市に「パティシエ エス コヤマ」をオープンする。1500坪の敷地の中に5つのブランド店舗やお菓子教室、ギフトサロンを運営。四季折々の草花を楽しめるガーデンをはじめ、店舗計画からパッケージに至るまで五感すべてで楽しめる空間づくりを行っている。2011年秋には本場フランス・パリで行われた世界最大のショコラの祭典「サロン・デュ・ショコラ」に出展。初出展ながらも、日本人初の外国人部門最優秀ショコラチエ賞を獲得する。



Questioner: Yukiko Yamaguchi
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